「なに釣ってるの?」
「メッ、メバルです…」
パンチは、釣った魚を入れたバケツをのぞき込んだ。
「おっ、けっこう大きいね」
「はっ、はい…」
「あ、糸引いてるよ」
「はっ、はい…」
パンチとその連れは、わたくしたちの釣りを見物することに決めたようだ。
近くにいて離れない。
むちゃくちゃ怖い。
釣れたのはカタクチイワシだった。
このあたりでは「シコイワシ」とも呼ばれる。
わたくしは基本的に「釣ったら食べる派」で、大きくなる魚の稚魚がかかった時、しかも傷ついていなかった場合にしかリリースしない。
傷ついているとリリースしても十中八九は死んでしまうから、だったら責任持って食べてあげたほうがいいのかなと思っている。
イワシは漢字で「鰯」と書く。
字の如く弱い魚である。
針を飲んでいることも多い。
外す時にどうしても口が傷つくので、キャッチ&リリースは無理。
それで、小さくても、いつも持ち帰って食べている。
佃煮風にすると骨まで食べられておいしいのだ。
いつものように持ち帰るつもりで、無造作にイワシを握って針から外そうとしたら、パンチが声を出した。
「あっ…」
「はっ、はい?」
「そっと触らないと。弱い魚だからさ。すぐに死んじゃうよ」
「リリースはしません。持ち帰ります」
「そうか。仕事は何してるの?」
相手がその筋の人だとしても、いや、その筋の人だからこそ、個人情報を正直に話すつもりはない。
けれど、あいまいに答えて「ふざけんなよ!」と、どやされたら、それも怖い。
意を決して「遊び人です」と答えると、意外なことに、パンチは面白そうに笑った。
「この人は坊さん」
パンチは、連れの男を紹介した。
パンチ自身の自己紹介は、なかった。
見ればわかるだろう、ってことなんだろう。
ヤーさまと坊さんという組み合わせが少々不思議だったが、関わり合いになると本気でヤバそう。
パンチの機嫌を損ねたら、海に沈められるかもしれない。
手回し良く、読経要員の坊さん付きだし…。
-続く-
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